2026年8月31日、各省庁が令和9年度(2027年度)予算の概算要求を公表しました。経済産業省の要求総額は7兆7,859億円。令和8年度当初予算(3兆693億円)の約2.5倍で、その大半を占めるのが新設の「強く豊かな日本」投資枠(6兆3,116億円)です。中小企業向けの補助金についても、これまでの仕組みを変える方針がいくつも盛り込まれています。経営者の方が押さえておくべきポイントを3つに整理します。
※本記事は2026年9月時点の公表資料(概算要求)に基づいています。概算要求は各省庁の「要求」段階であり、金額・制度は年末の政府予算案の編成と国会審議を経て確定します。各補助金の公募要領は年明け以降に公表される見込みです。
概算要求とは——「決定」ではなく「要求」の段階
概算要求は、各省庁が「来年度はこれだけの予算が必要」と財務省に提出する、予算編成の出発点です。この後、財務省の査定を経て12月に政府予算案がまとまり、翌年3月に国会で成立します。金額は査定で削られることも珍しくありません。ただし、「何に力を入れるか」という方向性は、この段階でほぼ決まります。
補助金の実務では、これまで「当初予算(4月〜)」と「補正予算(秋〜冬)」の二本立てで制度が動いてきました。ものづくり補助金・持続化補助金・IT導入補助金・省力化投資補助金といった主力の補助金は、近年は補正予算で財源を確保し、基金として複数回の公募を回す形が中心でした。今回の概算要求は、この構図に変化を示しています。
ポイント1: 主力補助金が当初予算に——中小機構への交付金6,980億円
今回もっとも大きな変化は、主力補助金の財源を当初予算で確保しようとしている点です。中小企業庁の資料では、補助金の執行を担う独立行政法人中小企業基盤整備機構への運営費交付金として6,980億円を要求しています。令和8年度当初予算は188億円、令和7年度補正予算が3,400億円でしたから、桁が変わる規模です。この交付金の中で、次の4つの補助金を実施するとされています。
| 補助金 | 資料に示された対象・内容 |
|---|---|
| 中小企業成長加速化補助金 | 売上高100億円超を目指す中小企業の大胆な投資を支援 |
| 省力化・デジタル化・AI投資補助金 | 人手不足や生産性向上の課題を抱える中小企業・小規模事業者に対し、AIを含むデジタル技術の活用や省力化設備の導入を一体的に支援 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 売上1億円を目指すなど「成長志向の経営計画(仮称)」を宣言する事業者を含む小規模事業者等の販路開拓等を、商工会・商工会議所の支援を受けながら実施 |
| M&A・事業承継補助金 | M&A・事業承継に伴う設備投資や、M&A・PMIの専門家活用費用等を支援 |
これとは別に、「新事業進出・ものづくり・商業・サービス補助事業」として2,200億円が計上されています。これまで既存の基金の内数で実施されてきたものが、当初予算の項目として要求された形です。また、地域の産業クラスター形成に向けたサプライチェーン形成支援補助金として2,376億円(うち後年度負担分1,376億円)が要求されており、令和7年度補正予算の4,121億円に続く措置となります。
補正予算頼みから当初予算へ移れば、年度の初めから計画的に公募が回る可能性が高まります。「補正が組まれるかどうか」「いつ公募が始まるか」に振り回されてきた経営者にとっては、投資のスケジュールを立てやすくなる変化です。ただし、あくまで要求段階であることは念頭に置いてください。
ポイント2: 「成長志向」の宣言が入口条件になる
資料を読んで目につくのは、「宣言」という言葉です。持続化補助金は、売上1億円を目指すなど「成長志向の経営計画(仮称)」を宣言する事業者を含む小規模事業者等が対象。新事業進出・ものづくり・商業・サービス補助事業では、成長志向型について「売上高10億円を目指す宣言」を原則として要件化するとしています。成長加速化補助金は従来どおり売上高100億円超を目指す企業向けです。
つまり、「小規模だから」「設備が古いから」という理由ではなく、「どこまで伸ばすつもりか」を宣言し、その根拠を計画で示せる事業者に補助金を集中させる方向です。小規模事業対策推進等事業(175億円、令和8年度当初62億円)には、この宣言の仕組みを構築・運用することが盛り込まれており、商工会・商工会議所の伴走支援とセットで進められます。
実務上の含意ははっきりしています。売上目標・付加価値額・賃上げの計画を数字で持っていることが、補助金を使うための前提になっていくということです。申請のたびに数字をつくるのではなく、ふだんの経営計画を持ち、そこから申請書に落とす会社が有利になります。
ポイント3: AI導入と省力化が一本化、地域ぐるみで伴走
「省力化・デジタル化・AI投資補助金」という名称のとおり、省力化設備への投資と、AIを含むデジタル技術の活用を一体的に支援する方向が示されました。これまで省力化投資補助金とIT導入補助金に分かれていた領域が、ひとつの枠組みに寄っていく見込みです。
あわせて、中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業(96億円、令和8年度当初33億円)に「地域AXネットワーク事業」が新たに位置づけられました。地域ごとに、中小企業とAIサービス事業者、商工会議所・商工会・税理士・金融機関・自治体・大学・高専などの支援者が集まる場をつくり、業種別のガイドラインも整備して、AI導入を伴走支援するというものです。
AIの導入は、一部の先進的な企業の取り組みから、補助金と支援体制の本流に移ろうとしています。人手のかかる業務の時間を測り、AIやシステムで減らし、浮いた時間を粗利に変える——こうした投資が、来年度の補助金の中心になる見込みです。
(関連記事: 人時生産性とは——計算式と、測り始めるための基本)
そのほか押さえておきたい項目
| 項目 | 令和9年度要求額 | 令和8年度当初 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 中小企業活性化・事業承継総合支援事業 | 280億円 | 139億円 | 収益力改善・事業再生と、後継者不在企業の事業承継・引継ぎ支援 |
| 中小企業信用補完制度関連補助事業 | 518億円 | 32億円 | 信用保証を通じて成長投資を後押し |
| 日本政策金融公庫補給金・出資金 | 604億円 | 169億円 | 民間金融機関と連携した成長資金の供給拡大 |
| 中小企業取引対策事業 | 40億円 | 30億円 | 取引Gメン・相談窓口による価格転嫁・取引適正化 |
| 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech) | 128億円 | 122億円 | 大学・公設試等と連携した研究開発 |
税制改正要望では、中小企業向け賃上げ促進税制の「抜本的な見直し・強化」、事業承継税制の「抜本的な見直し」、中小企業経営強化税制の拡充、中小企業投資促進税制・法人税の軽減税率・交際費特例の延長などが挙げられています。賃上げと投資を税制面からも後押しする構えです。厚生労働省の概算要求でも、業務改善助成金について支給上限額の引上げを含む拡充が要求されていると報じられています。
経営者はいま、何を準備しておくべきか
- 今年度の補助金は今のスケジュールで動く。来年度を待つ理由はありません。省力化投資補助金(一般型)第8回は9月中旬から受付開始の予定です(解説記事はこちら)
- 「宣言」に耐える経営計画をつくる。売上目標、付加価値額、賃上げの計画を数字で持っておく。これが来年度の補助金の入口条件になります
- 人手のかかる業務を棚卸しする。どの作業に何時間かかっているかを測っておくと、省力化・デジタル化・AI投資の計画がすぐに描けます
- 年末の政府予算案と、年明けの公募要領で確定。変更があれば当サイトで続報をお伝えします
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参考(公式情報):
- 中小企業庁「令和9年度 中小企業・小規模事業者関係 概算要求等ポイント」 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/r9/gaisan_point.pdf
- 経済産業省「令和9年度概算要求・税制改正要望について」 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/index.html


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